生前贈与のやり方を解説！非課税枠・自分でやるかの判断基準も紹介

「自分が亡くなる前に、所有している財産を家族へ譲渡したい。」そう考える方々は多いはずです。

自分（被相続人）の死亡で相続が開始されると、家族（相続人）が取得する相続財産に、「相続税」がかかる可能性もあります。被相続人の遺産額によっては、多額の相続税が課税されるかもしれません。

この相続税の負担を軽減する方法として、「生前贈与」があります。ただし、こちらを行う場合も一定の贈与額を超えたら、税金が発生するので注意しましょう。

そこで今回は、生前贈与とはどんな方法なのか、生前贈与のやり方と進めるコツ等を解説します。

この記事を読み終えたら、生前贈与を自分で行う際に確認するべき点も、よくおわかりになるはずです。

生前贈与とは、被相続人が存命中に財産を相続人等へ贈与する方法です。

被相続人に金融資産（預金・株券等）や不動産資産（土地・建物）が多いと、相続が開始された場合、多額の相続税が相続人に課せられる可能性もあります。

しかし、存命中に財産を分け与えていけば、相続税の負担軽減が図れます。また、将来に自分の相続人となる人達だけではなく、知人・友人等にも生前贈与が可能です。

生前贈与の方法として、主に「暦年贈与」「相続時精算課税制度」があげられます。

贈与者（贈与する人）が受贈者（贈与を受け取る人）に、贈与する一般的な方法です。受贈者は家族でも友人・知人等でも構いません。

暦年贈与をすれば、1年間（1月1日〜12月31日）で受贈者一人につき110万円までの贈与は非課税となります。

ただし、110万円（基礎控除）を超えると、受贈者に贈与税が課せられるので注意しましょう。

原則として、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子（孫）に贈与が行われる際、受贈者である子（孫）の選択により利用できる制度です。

本制度では2,500万円の特別控除が用意され、特別控除の限度額に達するまで贈与税は課されません。ただし、限度額を超えれば超過分に一律20％の贈与税が課されます。 

なお、本制度は2,500万円分の課税を、相続が発生するまで「猶予」される仕組みです。免除されるわけではないので注意が必要です。

つまり、相続時には贈与された分も加算され課税対象となります。その他、2023年現在では相続時精算課税と暦年課税の併用もできません。

なお、2024年1月からは相続時精算課税制度が改正され、特別控除2500万円分とは別に年間110万円までの基礎控除が認められます。

暦年贈与と相続時精算課税制度とでは、それぞれ生前贈与の手続き方法が異なります。

こちらでは生前贈与の

• 手続きの流れ
• 必要書類
• 手続きにかかる費用

について解説しましょう。

暦年贈与の場合は口頭で贈与を受贈者に約束し、手渡しをしても構いません。ただし、税務署から脱税や贈与税の発生を疑われる可能性も否定できないので、次の手順で進めていきましょう。

1. 誰にどんな財産を贈与するのか決める
2. 受贈者の同意を得て、贈与契約書を作成する
3. 贈与財産を受贈者へ移す
4. 1年間で受贈者一人につき110万円を超えたら、受贈者は贈与税申告をする

贈与契約書を作成すれば、当事者が契約内容を確認する書類となる他、受贈者に贈与した事実を証明する書類ともなります。

一方、相続時精算課税制度は、受贈者である子または孫が任意に選択し、次のように手続きを進めます。

1. 受贈者が申告期限（贈与の翌年の2月1日～3月15日）・贈与された財産額を確認
2. 相続時精算課税選択届出書等の書類を準備し、必要事項に記入する
3. 納税地を管轄する税務署に提出

暦年贈与の際に必要な書類は法定されていませんが、贈与契約書の作成は作成しておいた方が良いでしょう。

贈与契約書には贈与者・受贈者の氏名・住所、贈与物（お金なら金額、不動産なら評価額も記入）、贈与する年月日、贈与方法等を記載します。

贈与契約書は2通作成し、贈与者・受贈者がそれぞれに署名・押印（実印が望ましい）し、双方が1通ずつ保管します。なお、不動産の贈与に関しては印紙（200円）の貼付が必要です。

一方、相続時精算課税制度を利用する場合は、次の書類を準備しましょう。

• 贈与税申告書：最寄りの税務署の窓口・ホームページ等で取得可能
• 相続時精算課税選択届出書：最寄りの税務署の窓口・ホームページ等で取得可能
• 受贈者の戸籍謄本または戸籍抄本：受贈者の本籍地の市区町村役場で取得
• 贈与者の住民票または戸籍の附票：住民票は住所地の市区町村役場、戸籍の附票は本籍地の市区町村役場で取得

暦年贈与は、贈与者・受贈者が契約を取り交わすだけなので、ほとんど費用はかかりません。基本的に契約書作成の用紙代と、印紙代200円（不動産の贈与の場合に必要）のみです。

一方、相続時精算課税制度の場合、提出の際に手数料は無料ですが、提出する書類を収集する際に費用がかかります。

• 戸籍謄本または戸籍抄本：1通450円
• 住民票または戸籍の附票：1通300円

生前贈与は控除額を超えれば贈与税が課され、生前贈与を行った時期や贈与財産によっては、他の税金が課せられる可能性もあります。

こちらでは課税され可能性のある

• 贈与税
• 相続税
• その他の税金

について解説しましょう。

相続時精算課税制度の場合、特別控除の限度額を超えれば超過分に一律20％の贈与税が課されます。

一方、暦年贈与の場合、贈与税の計算方法として「特例贈与財産」「一般贈与財産」の2種類があります。

贈与年の1月1日で18歳以上の受贈者（2022年3月31日以前の贈与：20歳以上）が、直系尊属（例：父母・祖父母等）から贈与で得た財産を課税対象とします。

税率・控除額は下表の通りです。

（例）1月1日～12月31日までの1年間に、25歳の受贈者が祖父から1,100万円の贈与を受け取った

1,100万円－110万円＝990万円
990万円×30％－90万円＝207万円

贈与税額は207万円となります。

特例贈与財産以外の財産を課税対象とします。

税率・控除額は下表の通りです。

（例）1月1日～12月31日までの1年間で、17歳の受贈者が祖父から1,100万円の贈与を受け取った

1,100万円－110万円＝990万円
990万円×40％－125万円＝271万円

贈与税額は271万円となります。

毎年、少しずつ家族等へ贈与してきたものの、贈与者が亡くなった場合、相続財産の価額に贈与額が加算される可能性もあります。

なぜなら、相続開始前3年以内の贈与額分が、相続税課税価格に加算されてしまうからです（生前贈与加算）。

ただし、相続税の基礎控除（3,000万円+600万円×法定相続人の数）以内に遺産総額が収まれば、相続税の申告・納税は不要です。

基礎控除を適用してもなお、取得金額がプラスの場合、その金額に相続税が課されます。

相続税の税率・控除額は下表の通りです。

（例）被相続人から死後3年以内に300万円を相続人へ生前贈与した。相続で取得した財産の価額は葬儀費用等を差し引いても、5,000万円（純資産価額）が残っている。なお、相続人は配偶者・子の2人である。

5,000万円（純資産価額）+300万円（生前贈与）＝5,300万円（相続税課税価格）
3,000万円+600万円×2人＝4,200万円（相続税の基礎控除額）
5,300万円－4,200万円＝1,100万円
1,100万円×15%－50万円＝115万円

相続税の総額は115万円となります。

不動産を贈与された場合、たとえ評価額が110万円（贈与税の基礎控除）以内であっても、「不動産取得税」が課税されます。

不動産取得税の計算方法は「取得した不動産の価格（課税標準額）×税率」です。なお、課税標準額や税率は次の通りです。

• 課税標準額：価格の1/2（2024年3月31日までに宅地等を取得した場合）
• 税率：土地・住宅3/100、非住宅4/100

その他、受贈した不動産の名義変更を行った場合、登記申請の際に「登録免許税」が課税されます。課税額は「固定資産税評価額×2％」です。

こちらでは、「住宅取得等資金の贈与税の特例」を紹介します。

本特例を利用すれば、父母や祖父母から18歳以上の子や孫に対し、一定の要件のもとで住宅取得等資金を贈与した場合、贈与税が質の高い住宅なら1,000万円、一般住宅なら500万円が非課税となります。

主な適用要件は次の通りです。

• 住宅取得等資金を2023年12月31日までに贈与した
• 贈与年の受贈者の合計所得金額が原則2,000万円以内である

それに加え、質の高い住宅（1,000万円の非課税限度額）と認定されるには

• 家屋が耐熱性能等級4以上か、一次エネルギー消費量等級4以上である
• 家屋が耐震等級2以上か、免震建築物である
• 高齢者等配慮対策等級3以上である

いずれかに該当しなければいけません。

なお、申請期限は2023年12月31日と間近に迫っていますが、本特例が延長される可能性もあります。国土交通省の発表を待ちましょう。

生前贈与は注意点を良く把握すれば十分自分で行えます。

こちらでは、

• 贈与財産が年110万円以下の場合
• 贈与財産が預貯金のみの場合
• 贈与や税金の知識がある場合

それぞれのケースについて解説しましょう。

1年間の贈与財産が受贈者1人につき110万円以内ならば、申告も納税も必要ありません。

ただし、税務署から「定期贈与」とみなされないように注意しましょう。

税務署から定期贈与を疑われたならば、現金の贈与の場合、贈与開始時にすべての金額を贈与する意思があったと判断され、一括して贈与額の合計額に対し、贈与税がかかってしまいます。

定期贈与とは、契約書を作成し一定期間にわたり、一定の財産を贈与する方法です。

例えば「12年間にわたり毎年100万円を贈与する。」という贈与契約書を作成・贈与するケースがあげられます。

つまり、定期贈与の場合は総額1,200万円の贈与契約が先にあり、それを分割して毎年贈与していく仕組みです。

毎年同じ人に贈与する際は、定期贈与と疑われないために、贈与契約書を贈与する度に作成します。そして、なるべく毎年違う時期に、昨年とは違った贈与額を贈与していきましょう。

預貯金を贈与する場合も贈与契約書は作成した方が良いでしょう。更に手渡しではなく、受贈者に銀行振り込みで贈与すれば履歴が残ります。

万一、税務署から贈与税の発生を疑われた場合でも、贈与契約書の他に履歴が残っていれば、契約書通りの内容で贈与した証拠を提示できるはずです。

贈与や税金の知識があるなら、専門家に相談する必要はありませんが、後々相続人の間でトラブルが起きないように贈与を進めましょう。

例えば、相続開始までに長男へ1,000万円も生前贈与を行い、次男・三男にはまったく贈与しなかったならば、相続発生時に遺産分割をする際「長男の相続分は認めない。」と、次男・三男が反発する可能性もあります。

特に子供たちへ生前贈与を行う場合は、なるべく特定の受贈者に偏らず、均等に贈与していった方が良いです。

生前贈与・相続に関する相談窓口はいろいろと存在します。

こちらでは相談先として

• 市区町村に設置されている相談窓口
• 弁護士や税理士
• 終活サービス会社

をとりあげます。

市区町村では、無料で生前贈与・相続に関する悩みを受け付けているところが多いです。

ただし、実際に市区町村役場の職員が直接相談に応じるわけではなく、地域の弁護士や司法書士、行政書士等の士業専門家が、当番制で担当するケースがほとんどです。

各自治体によって相談日時や相談時間が決まっているので、まずは窓口（生活課が主に担当）に問い合わせてみましょう。

生前贈与・相続でトラブルが懸念されるなら弁護士に相談してみましょう。生前贈与・相続について、円滑に進めるコツをわかりやすくアドバイスしてくれるはずです。

また、贈与税・相続税対策を相談したいならば、税の専門家である税理士に相談しましょう。いろいろな節税対策を提案してもらえるはずです。

相談料は基本的に30分5,000円が目安となります（なお、初回相談無料の事務所あり）。

終活サービス事業者は、死後の事務手続き・遺品整理の代行、エンディングノート・遺言書の指南等、終活に関するサービスを展開しています。

こちらの事業者も、生前贈与・相続の相談サービスを用意しているはずです。終活を進めながら、不安な点をいろいろと相談できます。

ただし、相談を担当するのは事業者と提携している士業専門家である場合がほとんどです。

また、各事業者によって、相談サービス・相談料が終活プランに入っているか、それともオプションサービスなのかは異なります。

生前贈与は相続税対策に活用できますが、いろいろと注意しなければいけない点もあります。

本記事でご紹介した、生前贈与の内容をまとめると以下の通りです。

• 生前贈与には大きく分けて「暦年贈与」「相続時精算課税制度」がある
• 生前贈与をすると贈与税や相続税等が発生する可能性もある
• 生前贈与・相続に関し、悩み・不明点があれば、市区町村役場や士業専門家に相談できる

生前贈与は一人だけでも進められ、控除枠をうまく利用すれば、贈与税等の発生も抑えられます。

ただし、贈与内容によっては、後々相続人の間で遺産分割トラブルが発生する可能性もあります。なるべく公平に贈与していく心がけが大切です。