おひとりさまは死後事務委任契約すべき？費用・よくあるトラブル・お金がない場合の対応策など徹底解説

死後事務委任契約は、自分が亡くなった後に発生する、さまざまな手続きを第三者に依頼する契約のことです。

頼れる家族や親族がいないおひとりさまにとって、死後事務委任契約という言葉が耳に入り、気になることもあるのではないでしょうか。

しかし、遺言書や成年後見制度との違いなど、具体的な内容についてはあまり知られていません。

この記事では死後事務委任契約のメリット・デメリットや盛り込める内容、契約にかかる費用、資金に余裕がない場合の対策方法などについてお伝えしていきます。

起こりやすいトラブルについても解説していきますので、死後事務委任契約が気になっている方はぜひ読んでみてください。

おひとりさまとは、同居する配偶者や子供などの家族がいない単身者のことを指します。

平成27年の国勢調査によると、65歳以上の単独世帯の人口は562万6千人で、65歳人口の16.8％にものぼります。65歳以上男性の8人に1人、65歳以上女性の5人に1人が単独世帯のいわゆる「おひとりさま」なのです。

死後事務委任契約とは、亡くなった後に行わなければならない事務的な手続きを、第三者に委任する契約のことです。

具体的には、葬儀や埋葬の手配、病院や施設への支払い、行政手続き、関係者への連絡などが対象となります。こうした手続きは、多くは遺された家族が行うものですが、おひとりさまの場合は頼める家族や親族、知人がいないというケースが珍しくありません。

死後事務委任契約を行うことで、自分が亡くなった後の諸々の手続きを第三者に任せることができ、老後の不安を軽減することができます。

遺言書が効力を持つ事項は、相続や遺贈など、あくまでも財産承継に関することに限られます。

それに対して死後事務委任契約は、財産承継以外の事柄に関して自由に取り決めることができます。

葬儀の希望やお墓に関する希望など、諸々の事務手続きについて決めておきたい場合、遺言書ではなく死後事務委任契約が有効です。

遺言書と死後事務委任契約では効力を持つ範囲が異なりますので、おひとりさまは財産承継や葬儀など全ての死後に関することを任せるために、遺言書と死後事務委任契約の両方を締結するのがおすすめです。

成年後見制度は、判断能力が衰えた被後見人に対する財産管理等を行ってくれる制度です。

ただし成年後見契約は生前にしか効力がなく、被後見人が亡くなると契約は終了してしまいます。

そのため、葬儀や埋葬をはじめとする死後の手続きに関しては、死後事務委任契約で行う必要あります。

死後事務委任契約に盛り込める内容には次のようなものがあります。

• 行政への届出
  役所への死亡届けの提出、戸籍関係の手続き、健康保険・国民年金の資格抹消申請等などが挙げられます。

• 葬儀、埋葬、永代供養に関する事務
  葬儀会社への連絡や喪主の代行、墓石の建立、永代供養、菩提寺の選定などがあります。散骨や樹木葬などを望む場合は、しっかりと記載しておきましょう。

• 親族等への連絡
  離れて暮らしている親族等や知人に、亡くなったことや相続手続きに関する連絡を行います。

• 医療費の精算手続き
  生前に利用していた医療機関などの精算を依頼することで、料金未納になることを防ぎます。

• 介護費用・老人ホーム等の手続き
  施設利用料の支払いや入居一時金等の受領などがあります。

• 住まい・家財に関すること
  賃貸の場合は解約や明け渡し、支払いに関する手続きがあります。居住していた部屋の清掃や家財の処分方法などについても取り決めが可能です。

• デジタル遺品の整理、消去
  サブスクリプションサービスの解約やパソコン・スマートフォンの情報消去、ブログ・SNS等への死亡の告知や閉鎖などが挙げられます。

前章で挙げたような様々な手続きは、多くの場合、遺された家族によって行われるものです。

しかし、頼れる家族や親族がいないおひとりさまの場合、あるいは兄弟などがいても迷惑をかけたくないという場合は、自分の意思を反映できる死後事務委任契約が有効です。

死後事務委任契約を行わない場合、葬儀や納骨、遺品の処分などで周囲に迷惑がかかる可能性があります。

葬儀や納骨をはじめ、あらゆる手続きについて生前の意思を反映できる死後事務委任契約を結んでおくことで、老後を安心して過ごすことが出来るでしょう。

兄弟がいる場合でも、老齢になると身体的理由から役所へ行くのも大変というケースもありえます。

周りに負担をかけたくない場合に、第三者に委任できる死後事務委任契約は非常に役立ちます。

おひとりさまが死後事務委任契約を利用する最大のメリットは、老後を過ごす安心材料になることです。

委任者と受任者の間に法的な拘束力があるので、確実に意向を反映してもらうことができ、頼れる家族・親族がいない場合でも安心して老後を過ごすことができます。

デメリットとしては、契約の性質上、契約が遂行されるのを自分自身が確認できないことが挙げられます。

そのため、依頼する際には信頼できる業者や専門家を見極め、契約書は公正証書として作成することが重要です。

公正証書とは、公証役場で公証人により公文書として作成された契約証書のことで、万が一裁判などのトラブルになってしまった際も信頼性の高い証拠となるものです。

死後事務委任契約は基本的に誰とでも結ぶことができます。

家族や親族、知人などで依頼できる相手が身近にいない場合は、次のような相手と契約を行うのが一般的です。

• 弁護士、司法書士、行政書士
• NPO法人や一般社団法人
• 事業者（終活支援サービス会社）
• 社会福祉協議会

死後事務委任契約作成料は、契約書の作成にかかる費用です。公正証書として作成する場合は、公証人役場に支払う手数料が含まれます。

死後事務報酬は、実際に事務手続きを行うことに対する報酬です。委任内容に伴って発生しますので、依頼項目が多いほど金額も多くなります。

預託金は、葬儀代や遺品整理費用など、死後事務に必要になる経費を前もって預けておく費用です。葬儀の形式など、依頼内容によって大きく異なります。

ここでは、死後事務委任契約を検討しているものの資金に余裕がない場合、費用を安く抑える方法について解説します。

死後事務委任契約の受任者によっては、支払い方法に保険金精算方式を用意していることがあります。保険金精算方式では、保険会社と生命保険契約を結ぶことで、死亡後の保険金から費用を支払うことができます。

保険会社に支払う月々のお金を費用に充てることができるため、契約時にまとまった預託金を預ける必要がないのがメリットです。

ちなみに、遺言書によって死後に相続される財産から死後事務委任契約の費用を捻出するという方法もあります。ただし遺言書を作成する際に別途作成費用が発生してしまいますので、資金が少ない場合の方法としてはあまり有効ではありません。

支払い方式は業者・専門家によってさまざまであるため、資金に余裕がない場合には、保険金精算方式に対応しているかどうか確認を行いましょう。

サービス内容や費用自体も業者・専門家により大きく異なります。比較検討のため、必ず複数社に見積を依頼するのがおすすめです。

また、依頼内容が多くなるほど死後事務依頼報酬も比例して費用が高額になるため、内容を必要なものだけに精査するのは有効です。

死後事務委任契約の手続きの流れは下記の通りです。

1. 専門家や事業者への連絡
2. 委任内容の相談
3. 見積書の確認
4. 死後事務委任契約書の作成
5. 契約書の作成費用、預託金の支払い
6. 依頼者の死亡後、死後事務委任契約の執行

受託者の精算方式によっては、保険金での精算や遺産からの支払いに対応していることがあります。その場合、預託金を預けることなく、費用は依頼者の死亡後に支払うことになります。

家族や親族、特に相続人には死後事務委任契約の存在や内容を知らせておくことが重要です。

相続人からすれば、死後事務委任契約の費用は相続財産から支払われており、相続できる額が減ってしまったと捉えられることもあります。

また、死後事務委任契約の存在を知らなければ、亡くなった後で死後事務委任契約を結ばれてしまう二重契約のリスクもあります。

さらに、死後事務委任契約の内容が相続人の意思に反する場合には、死後事務委任契約の受任者と親族との間で対立が生じてしまい、スムーズに事務処理を行うことが難しくなります。

具体的には葬儀や納骨の形態、遺品整理などについて揉めるなどのトラブルが起こり得ます。財産を受け取る相続人の協力は、支払いを行うためにも必須です。

相続人には元気なうちに死後事務委任契約の存在と契約内容を知らせておきましょう。また、公証人によって公正証書の形で死後事務委任契約を作成することは二重契約を防ぐためにも有効です。

死後事務委任契約では、その性質上、契約から手続き開始までの期間が長くなります。その間に運営会社が破産したり、反対に利用者の費用が確保できなくなることがあります。

過去には死後事務委任契約を行っていた公益財団法人が経営破綻した例がありました。利用者はサービスを受けられなくなったばかりか、高額な入会金の返還もなく、改めて別の身元保証会社に入会しなければなりませんでした。

このようなトラブルを避けるため、信頼できる事業者を選定し、慎重に比較検討を行うことが重要です。

経営破綻の例とは反対に、契約を締結してから期間が経つにつれて、自身の状況が変わったり、新たなサービスが登場したりといったこともあるでしょう。新たなサービスに契約をし直したいと考えることも充分にあり得ます。

その際、利用者は従来契約していた受託者に解約と預託金の返還を求めます。ところが、受託者によっては預託金の返還に応じない、一部しか返金を行ってくれないといったトラブルが実際に発生しています。

このような返金トラブルに遭わないために、契約時には預託金の用途や解約時の返金についてしっかりと確認するようにしましょう。

死後事務委任契約は、自分の死後にさまざまな手続きの依頼を契約しておくことができる、おひとりさまに安心のサービスです。

改めて本記事の内容をまとめると下記の通りです。

• 行政への届出、葬儀、埋葬に関する事務、親族等への連絡、医療費の精算手続き、老人ホーム等の手続きなどが盛り込める
• 死後事務委任契約を行うことで、家族・親族や周囲に迷惑をかけないという老後の安心材料となる
• 資金に余裕がない場合は保険金精算方法を検討する余地がある
• 家族・親族とのトラブルを避けるため死後事務委任契約の内容について知らせておく必要がある
• 運営会社・専門家とのトラブルを避けるため信頼できる事業者を選定し、費用の支払いについてもよく確認を行う必要がある

上記の点を踏まえて、おひとりさまの安心できる老後のために死後事務委任契約を検討してみてください。