認知症で入院できる病院や施設を紹介！費用と基準について知っておくべきこと

認知症は患者によって症状や進行の早さが異なるため、入院の可否や期間、費用なども変わってきます。

この記事では、認知症の家族の入院を検討している人に向けて、入院基準や入院にかかる期間・費用・出来ない場合の対処法について徹底解説します。

さらに、身寄りがないおひとりさまの高齢者が、認知症で入院する場合の対策方法についても解説しているので、自分自身の認知症について不安を感じている人のお悩みにもお答えします。

認知症で入院できる場合があります。

自宅での介護が困難な場合や、介護施設から退居させられてしまった場合などは、病院への入院を検討してみてもよいでしょう。ただし、認知症患者の病状や状況によって入院を断られてしまう場合もあるため、以降でお伝えする「認知症の人の入院基準」について確認しておきましょう。

認知症患者の入院先は主に以下2つです。

1. 認知症治療病棟がある病院
2. 認知症疾患医療センター

認知症治療病棟がある病院が入院先の一つとして挙げられます。

認知症治療病棟とは、次のような方を対象に専門的な入院治療と手厚いケアを提供するための病棟です。

• 認知症と診断され、精神症状および行動障害が認められる方
• 日常生活に支障が見られ、自宅や施設での介護が困難な方

認知症治療病棟では、薬物療法に加えて、生活機能回復訓練や運動療法、作業療法などが行われており、生活能力を保つための取り組みも行われています。

なお、認知症治療病棟は、長期の療養を前提とするものではありません。病院によっては、退院後の日常生活についても相談できる場合があるので、退院前にアドバイスをもらっておくとよいでしょう。

認知症患者の入院先として、認知症疾患医療センターへの入院を検討しても良いでしょう。

認知症疾患医療センターとは、検査機器や入院設備などの条件を満たした医療機関で、認知症に関する詳しい診断や症状への対応、相談対応などを行っています。また、認知症疾患医療センターでは、都道府県や政令指定都市が指定する病院に設置されており、地域の病院（かかりつけ医）や介護施設、行政などと連携して認知症の治療やケアを行っています。

認知症疾患医療センターへの入院を検討している場合には、以下の方法で受診することができます。

• かかりつけ医に紹介してもらう
• 地域包括支援センターに問い合わせる
• 認知症疾患医療センターに直接問い合わせる

認知症疾患医療センターは「認知症かも？」と感じた人やその家族が利用できる医療機関です。「加齢によるただの物忘れかもしれないから」「認知症ではないと思うから」などとためらわずに、気になる症状があれば早めに相談してみましょう。

認知症によって「自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあることが明らかである場合（※参照：精神保健福祉法 第五章）」に加えて、以下の2つに該当するかどうかが入院の必要性を判断する基準となっています。

1. 介護者の生活が阻害される場合
2. 入院の必要性を専門医が判断した場合

自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあることが明らかである場合」に加えて、介護者の生活が阻害される場合に入院が必要であると判断されます。

介護者の生活が阻害される場合とは、例えば、以下のような症状が見られる場合です。

• 妄想や幻覚が目立つ
• 些細なことで怒りだし暴力などの興奮行動に繋がる
• 落ち込みや不安、苛立ちが目立つ

※参照：「認知症の人の精神科入院医療と在宅支援のあり方に関する研究会」｜厚生労働省

「自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあることが明らかである場合」に加えて、専門医が入院の必要性を判断した際にも、認知症患者は入院することができます。

例えば、認知症患者が治療や服薬を拒否したり、精神・身体症状が悪化している場合などに専門医によって入院を進められる場合があります。

認知症患者の入院期間は、平均273日となっています。

認知症患者以外を含む全入院患者の平均在院日数が32日なので、認知症での入院は比較的長期に渡る可能性があると考えられます。（※参照：令和2年患者調査｜厚生労働省）

ただし、入院期間が決められているわけではなく認知症患者の病状によっても異なるため、まずは病院や専門機関へ相談してみましょう。

認知症で入院する場合の一人あたりの入院医療費用は平均344,300 円/月と試算されています。

なお、この金額は保険適用外の差額ベッド室代、食事代は含みません。

※参照：認知症の社会的費用を推計（2015年）｜慶応義塾大学医学部・厚生労働科学研究

ただし、入院先や治療内容、入院期間によっても費用は変動します。

具体的な費用については、入院する病院のソーシャルワーカーやケースワーカーなどの職員に聞いてみましょう。

認知症患者が入院する際の主な費用は、以下2つに分けられます。

1. 治療にかかる費用
2. 入院生活にかかる費用

入院生活を送るために発生する費用です。例えば、必要に応じて次のような費用がかかります。

• 入院費（部屋代）
• 差額ベット代
• 食事代
• 生活費
• 衣類レンタル・クリーニング代
• シーツ代
• おむつ代

認知症患者の入院時に発生する下記の費用には公的医療保険が適用され、一般的な世帯で自己負担は3割となっています。

• 　入院費用（部屋代、シーツ代、診察及び看護料）
• 　治療費（投薬治療、注射、検査、リハビリにかかる費用）

一方で、以下の費用は公的医療保険の適用外となるため全額自己負担する必要があります。

• 差額ベット代
• 食事代
• 生活費
• 衣類レンタル・クリーニング代
• シーツ代
• おむつ代
• 交通費
• 知人等のお見舞いへのお礼
• 認知症患者が行方不明になった際の捜索費用　など

本章では、医療費の負担を減らす補助制度について解説します。金銭的に余裕が無いという場合には、次の4つの制度の利用を検討してみましょう。

• 自立支援医療制度
• 高額療養費制度
• 限度額適用認定証
• 高額介護サービス費

自立支援制度を利用することで、認知症の治療における経済的負担を減らすことができます。

自立支援医療制度とは、心身の障害を除去・軽減するための医療について、医療費の自己負担額を軽減する公費負担医療制度です。

認知症で通院している場合、自立支援医療制度を利用することで、医療費の自己負担額が3割から1割になります。

なお、自立支援医療制度の申請は市区町村の障害福祉課や保健福祉課で行うことができます。

※参照：自立支援制度｜厚生労働省

高額な医療費を支払った場合、高額療養費制度を利用することで一定の金額を受給することができます。

高額療養費制度とは、医療機関や薬局で支払う自己負担額が１カ月単位で一定額を超えた場合に、超えた分を加入している医療保険から支払ってもらえる制度です。

例えば、一般的な所得者の場合、自己負担限度額は月18,000円（年間上限14.4万円）となります。月の医療費が25,000円だとしたら、超過分の7,000円は高額療養費制度で受給することができます。（※参照：高額な医療費を支払ったとき（高額療養費）｜全国健康保険協会）

上限額は年齢や所得に応じて定められており、いくつかの条件を満たすことにより、負担を更に軽減するしくみも設けられています。（※参照：高額療養費制度を利用される皆さまへ｜厚生労働省）

認知症は、自分や家族、友人など誰もが発症するリスクを持っています。万が一、家族や親族が認知症で入院が必要になる場合に備えて、以下の3つのポイントを押さえておきましょう。

• 手続きに必要な書類を準備しておく
• 病歴や服用薬を確認しておく
• 加入保険について確認しておく

入院時の手続きに必要な書類を準備しておきましょう。

例えば、入院の手続き時に必要になるものとして以下が挙げられます。

• 印鑑
• 保険証
• 通帳　など

また、認知症の患者本人の預金で入院費用を賄う場合には、十分に資金が残されているかや保管場所について事前に確認しておくと安心です。

認知症患者の持病や服用薬については必ず確認しておきましょう。

治療内容や投薬の方針を決定する上で、これまでに患った病気や飲んでいる薬、アレルギーなどについての情報が必要になるからです。お薬手帳をチェックしたり、かかりつけの病院に確認して正確に把握しておきましょう。

加入している民間の医療保険や介護保険について把握しておきましょう。

加入している保険によっては、入院費用が出る場合があるためです。いざという時に、スムーズに手続きを進められるよう、事前に契約内容や金額について確認しておくことをおすすめします。

治療によって進行を遅らせることはできるものの、認知症を根本的に治すことは難しく、入院したとしても認知症の症状は進行していきます。

また、元々認知症の症状が見られなかった高齢者が、別の理由で入院した際に認知症を発症してしまうこともあります。

入院によって認知症が悪化する主な原因は以下の3つです。

1. 筋力の低下
2. 自立心の低下
3. ストレス

入院で活動量が減って筋力が低下し、認知症が進行する原因となる場合があります。

入院中は一日のほとんどをベッド上で暮らすため、活動量が大幅に減り、筋力の低下を招きます。そして筋力の低下は認知機能の低下を引き起こし、認知症の進行を早めてしまうのです。（※参照：筋肉が認知症発症をコントロールする！｜富山大学）

入院中は軽い運動をする習慣を取り入れて、なるべく活動量を増やすよう心がけることが重要です。

入院することで自立心が低下し、認知症の進行を早める原因となる可能性があります。

病院では、病院スタッフが食事や排泄など日常生活の面倒を見てくれるため、物事を自分の頭で考えたり、自発的に行動する機会がどうしても減ってしまいます。

どうしても自分で行えない作業以外は、無理のない範囲で自分で行い、自立心を保つように心がけることが大切です。

入院による環境の変化がストレスとなり、認知症が悪化する一因になることがあります。

環境の変化、不安・焦燥感・疎外感などが加わった際に生じるストレスは、認知症の発症や、症状の進行を早める引き金となります。（※参照：認知症高齢者の行動・心理症状（BPSD）に対する支援のあり方｜園田学園女子大学）

また、環境変化に適応できず、入院中の高齢者がせん妄を発症するケースも少なくありません。病気やケガによる入院であっても、認知症の症状が発症したり悪化する可能性がある点は留意しおきましょう。

認知症が悪化するのを防ぐために、高齢者や認知症患者が入院する際は以下の4つを心得ておきましょう。

1. 生活リズムを整える
2. ストレス解消法を見つける
3. 十分に睡眠をとる
4. リハビリを実践する

入院中は生活リズムを整えましょう。

前述の通り、認知症患者は環境の変化が苦手です。ストレスを溜めないためにも生活習慣やリズムを崩さないよう心がけましょう。

入院中のストレスを解消できる方法を見つけましょう。

前述の通り、ストレスは認知症の進行を早める原因の一つとなります。軽い運動や手先を動かす作業、読書や楽器、人とコミュニケーションをとるアクティビティなど選択肢は様々です。本人が没頭して楽しめるようなものを見つけるとよいでしょう。

入院中は十分に睡眠をとりましょう。

睡眠不足は、自律神経の乱れやうつ症状、不安といった認知症の周辺症状を悪化させる場合があります。また、睡眠時間を十分に確保することで、規則正しい生活を送ることにもつながります。

認知機能をできる限り維持して認知症の進行を遅らせるためには、リハビリを通して心と体を刺激することが重要です。

代表的な認知症のリハビリは以下の通りです。

• 認知刺激療法：聞くこと・見ること・触ること・匂いを嗅ぐこと・味わうことの総称である五感を刺激するリハビリ方法
• 回想法：自分の過去を思い出すことで脳を活性化させるリハビリ方法
• 音楽療法：音楽を聴く、歌う、簡単な楽器を使うなどで脳を刺激するリハビリ方法
• リアリティオリエンテーション：時間・日付・季節・場所・自分の名前など、今の状況について話をするリハビリ方法
• 運動療法：運動を通じて身体機能・認知機能を向上させるリハビリ方法

リハビリは本人の生活の質を高めるだけでなく、介護者の負担軽減効果も期待できるので、無理のない範囲で積極的に行いましょう。

認知症で入院する方は多くいますが、一般の病院ではその他の疾病がない場合や、症状によって入院できない可能性もあります。

例えば、以下の行動が見られる場合には入院を拒否されたり、退院を促されたりすることがあります。

1. 大声をあげる
2. 暴力をふるう（介護拒否・治療拒否）
3. 徘徊する

入院中に大声を出してしまい、他の患者に悪影響がある場合は入院できないことがあります。

認知症によって昼夜逆転して眠れず、夜間や早朝に大きな声を出してしまうようになることがあります。大声が騒音となり、他の患者の寝不足やストレスの原因にもなってしまいます。治療が上手く進まずに改善が見られない場合、病院側も対応できず入院拒否となってしまうのです。

認知症によって病院のスタッフや他の患者に暴力をふるってしまう場合に、入院を拒否される可能性があります。

認知症が進行すると、感情のコントロールが上手くできなくなることがあり、周囲の人へ暴言を吐いたり、暴力をふるってしまうことがあります。例えば、オムツ交換や、点滴、診察、治療の際に暴力をふるったり、大声を出したり、物を投げたりするケースもあります。

徘徊が何度も継続して起こる場合は入院が出来ない場合があります。

「徘徊」とは認知症の方が、目的もなく歩き回る、車いすで動き回る、床やベッドの上で這い回るといった行動を取る症状のことです。家の外に出て徘徊するようになると、行方不明になったり事故に巻き込まれたりすることがあるのでとても危険な行動です。

あまりにも徘徊が続いたり、治療の妨げになる場合には病院でも対応しきれず「入院はできない」と判断されてしまうことがあります。

入院が必要な状況であるにもかかわらず、認知症の患者本人が入院を拒むケースがあります。

そういった際には、以下の2点に留意しましょう。　

• 自尊心を傷つけないよう配慮する
• 病院への受診の促し方を工夫する

認知症の方の自尊心を傷つけないよう配慮しましょう。

認知症はゆっくりと進行していくため、特に認知症初期の段階では、本人も「もの忘れ」や「物事を上手くできないこと」を自覚している場合が多くあります。周囲に迷惑をかけたくない、恥ずかしい、怖い、と感じていることも少なくないため、入院を勧めたり、サポートする際には、相手の自尊心を傷つけることのないような言動に配慮することが重要です。

病院への受診を促す際の声かけを工夫しましょう。

例えば、以下のような声のかけ方が有効な場合があります。

• 最近のもの忘れの状況を優しく説明する
• 早く診断し治療することでもの忘れの進行を遅らすことができることを優しく伝える
• 認知症になったら、家族が困ってしまうから一度受診して欲しい旨を伝える

認知症を発症していても、良心や家族への気遣いは十分残っている場合は多くあります。ウソをついてだまして病院へ連れて行ったり、きつい口調で受診を促すと逆効果になる場合も多いので、声のかけ方に配慮・工夫してコミュニケーションを取るようにしましょう。

認知症で入院をしていても、やむを得ない事情で退院を促される場合があります。

認知症で退院をせざるを得ない場合に困ることとして、以下の3つが挙げられます。

• 転院先が見つからない
• 入所可能な施設が少ない
• 利用可能な在宅介護サービスがあまりない

いざという時に対応できるよう、認知症患者が退院しなくてはならくなった場合について理解を深めておきましょう。

やむを得ずに退院しなければいけなくなった際の対処方法として、以下の選択肢があります。

1. 自宅で介護を行う    
2. 他の病院へ転院する
3. 病院の医療相談室を利用する
4. 地域包括支援センターに相談する

退院後は、自宅で介護を行うという選択肢があります。

まずは自宅で介護が出来るかどうか、どのようなケアが必要かどうかについて病院の担当の看護師に相談してみましょう。なお、自宅で介護する場合には一人で抱え込みすぎずに、介護保険サービスや公的サービスなどを上手く頼ることも大切です。

自宅介護が難しい場合には、認知症専門病院や精神科や心療内科が設置されている他の病院へ転院するという選択肢があります。

認知症専門病院の場合には早期の受け入れをしてくれる場合もありますし、認知症専門の医師もいるため安心して治療を任せることができます。

転院先については、現在入院している病院の相談室や、市区町村などに配置されている認知症地域支援推進員に相談してみましょう。

退院後の対応で困ったら、病院に設けられている医療相談窓口へ相談してもよいでしょう。

入院施設がある中規模や大規模の病院には、多くの場合、医療相談室（地域連携室）などが設置されています。医療相談室には、相談員（ソーシャルワーカー）がいるので、転院先のこと、在宅介護で必要な介護サービスなどについて相談することができます。

地域包括支援センターでも、認知症の家族への対応について相談できることを念頭に置いておきましょう。

地域包括支援センターには、介護支援専門員、社会福祉士、看護師といった福祉と医療の専門職が配置されており、高齢者支援についても相談できます。地域包括支援センターは全国の市区町村に設置されているので、お住まいの市区町村にある地域包括支援センターを探して相談してみましょう。

一般的に、病院に入院する際には身元保証人を求められます。しかし、一緒に暮らす家族がいなかったり、親族と疎遠になってしまったりなどの事情から、身元保証人を立てられない場合もあるでしょう。そういった場合には、以下2つの方法で身元保証人の機能を第三者にお願いすることができます。

1. 成年後見人制度を利用する
2. 身元保証サービスを利用する

認知症で入院となるケースは多くあり、認知症治療病棟がある病院や認知症専門の医療センターが主な入院先となります。しかし、患者の状況や症状によっては入院したくてもできない場合があったり、退院を促される場合があります。認知症の家族の対応に困ったら、かかりつけの病院や地域包括支援センターへ相談するようにしましょう。

また、おひとりさまの高齢者が認知症やその他の病気で入院が必要になった場合でも、成年後見人制度や身元保証人サービスを利用することで身元保証人を立てることができます。家族がいなかったり、疎遠になってしまっていて身寄りがない場合には、いざという時のために早めに対策をしておくと安心です。