認知症の方への対応の仕方｜おひとりさま高齢者の認知症への対応策もご紹介

認知症は、脳の病気や障害など様々な原因により認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいいます。認知症の中でも最も多いアルツハイマー型認知症は、脳の一部が萎縮していく過程で起こります。

最初はもの忘れから始まることが多く、ゆっくりと進行していきます。

日本で65歳以上の認知症患者は約600万人（2020年時点）と推計され、2025年には約700万人が認知症になると予測されています。なんと高齢者の約5人に1人が認知症を患うことになるとされているのです。

認知症｜厚生労働省

認知症は、自分や家族、友人など誰もが発症する可能性を持っています。早期から正しい対応の仕方を理解し、いざという時に備えることが大切になります。

認知症の方に対応する際は、以下の7つの心構えを意識しましょう。

1. 自尊心を傷つけない
2. 優しく様子を見守る
3. ペースを合わせる
4. 話しかける際は１人で
5. 後ろから声をかけない
6. 目線を合わせて優しい口調で話す
7. なるべく笑顔で接する

認知症の方の自尊心を傷つけないよう配慮しましょう。

認知症はゆっくりと進行していきます。したがって、認知症初期の段階では、本人も「もの忘れ」や「物事を上手くできないこと」を自覚している場合が多いです。

周囲に迷惑をかけたくない、恥ずかしい、怖い、と感じていることも少なくないため、声をかけたりサポートする際には、相手の自尊心を傷つけることのないように配慮することが重要です。

認知症の方の様子を優しく見守りましょう。

認知症の方は、今まで出来ていたことができなくなったり、認知症の進行に焦りや不安を感じていることもあります。

日常の様々な作業が遅くなったり、スムーズに行えなくなっていきますが、さらに不安や焦りを与えてしまうことのないよう、優しく見守るように心がけましょう。

なるべく認知症の方のペースに合わせ、急かさないように心がけましょう。

認知症が進行すると、話すスピードをはじめ日常生活のあらゆる作業が遅くなり、一般的なスピードで行えなくなっていくことがあります。

会話をするときは相手の言葉にじっくり耳を傾け、何か作業を一緒にする際は、認知症の方のペースに合わせ、余裕を持って対応するように意識しましょう。

声をかける際は、一人で話しかけるようにしましょう。

認知症が進むと、人の顔や名前を新たに覚えたり、識別することが苦手になっていきます。複数人で声をかけてしまうことで、混乱させてしまう可能性があります。

認知症の方へ話しかける際には、後ろから声をかけないように配慮しましょう。

視野に入らない場所から声をかけることで驚かせてしまい、パニックを引き起こす可能性があるからです。

正面から徐々に近寄って声をかけることがポイントです。

認知症の方と会話をするときは、目線を合わせて優しい口調で話すように心がけましょう。

認知症を発症したことで、今までできていたことや一般的な人ができることができなくなり、周囲から心無いことを言われたり、嫌な顔をされて心に傷を負っている人も少なくありません。

こういった経験から、周囲の人へ不信感や恐怖を抱いている場合もあるので、認知症の方と接する際には優しく寄り添って会話をするようにしましょう。

認知症の方と接する際には、なるべく笑顔でいることを心がけましょう。

認知症が進行すると、日々の生活で体験したことは忘れてしまうようになりますが、その時々の感情は覚えていることがあります。

例えば、嫌な体験をしても、何が嫌だったか記憶していないものの「嫌だった」という感情は残っています。

なるべく穏やかに明るく過ごしてもらうためにも、介護者はなるべく笑顔で明るく接するように努めましょう。

認知症が進行すると、以下のような症状が現れることがあります。

• 食事したことを忘れる
• 被害妄想
• 頻繁にトイレに行く
• 幻覚
• せん妄
• 勝手に外へ出て徘徊する

まずは、それぞれの症状について、特徴や原因を簡単にご説明します。

認知症の進行により、トイレに頻繁に行くようになるケースがあります。

特に、夜間にトイレに頻繁に行く原因には次の２つが考えられます。

• 過去に失禁した経験がトラウマになっている
• トイレに行ったことを忘れている

夜間に頻繁にトイレに行くことは、介護者にとっても大きなストレスの原因となります。

認知症患者の中には、幻覚症状を発症する方もいます。

特に、認知症の中でもレビー小体型認知症の症状として発症することが多いものです。

例えば「部屋の壁を虫が這っている」「見知らぬ人が家にいる」など、人に見えないものが見えると訴えることがあります。

せん妄は認知症の進行によって発症することがある症状の一つです。

せん妄とは、急に興奮したり、つじつまが合わないことを言ったり、異常行動が見られたりする状態のことです。夜間に発症する場合には、夜間せん妄と呼ばれることもあります。

身体的に健康で歩く能力がある認知症患者に多いのが徘徊です。

認知症の方が徘徊する原因としては、以下のようなものがあります。

• 道が分からなくなってしまった
• 過去に住んでいた家に帰ろうとしていた

認知症患者の徘徊を防ぐのは難しく、行方不明になることも多く社会問題になっています。

認知症患者が一度食べた食事を再度要求する際には、否定はせずに「今準備しているからね」などと相手に寄り添った声かけをしましょう。

拒否したり否定してしまうと、家族から虐待されているのではないかという被害妄想に繋がる可能性もあります。

また、食べ過ぎにならない程度に、フルーツや軽食を準備しておいてもよいでしょう。

認知症の方に被害妄想の症状が出た際は、否定せずしっかり話を聞いた上で共感を示すように心がけましょう。

被害妄想は、本人が抱える不安や焦燥感、孤独感など様々な感情が複雑に絡み合うことで現れることが多いと考えられています。

本人はウソをついているつもりは無いので、否定したり怒ったりすることは逆効果となってしまいます。

しっかり話に耳を傾けて寄り添う姿勢をみせたり、別の話題を持ちかけて意識をそらすなども方法の一つです。

認知症患者が頻繁にトイレにいくようになり、本人や介護者の生活に支障が出るようになった場合には、以下の対応を試してみましょう。

• 水分補給のタイミングを工夫する
• 紙おむつを活用する

特に、水分の摂取は日中に多めに済ませておき、夜間は少なめにするなど、タイミングを工夫することは対応方法の一つといえます。

認知症の方が幻覚を訴える際には、以下の対応を心がけましょう。

• 真に受け過ぎず、否定もしない
• 優しく声をかける

いきなり自分には見えないものが見えると訴えられると驚くこともあるかと思いますが、なるべく否定はしないようにしましょう。

ただ、幻覚を訴えられる度に真に受けていては介護者の方も疲れてしまうので、あまり深く受け止め過ぎずに受け流すことも大切です。

認知症の方にせん妄の症状がみられる場合には、無理に制止しようとせず落ち着いて対応するように心がけましょう。

せん妄の症状は、音や光などのちょっとした刺激が引き金になることもあります。したがって、静かで落ち着ける居住環境づくりも重要になります。

徘徊は本人にとっては本人なりの目的や理由があるため止めることは非常に難しい症状です。徘徊症状が目立ってきた際には、以下の対応を試してみましょう。

• 一人で外出しようとした場合にはなるべく同行する
• 徘徊に備えてGPSを活用する
• 持ち物に連絡先を記載しておく

認知症の方に対して、絶対にやっては行けない対応の仕方は以下の通りです。

• 怒る・叱る
• 命令する
• 強制する
• 子ども扱いする
• むやみに行動を制限する
• 役割を取り上げる
• 放置する

認知症の方に対して、これらの間違った対応をとってしまうことで逆効果となり、被害妄想やせん妄症状の悪化に繋がりかねません。

介護者もストレスがたまり苦労することも多いかと思いますが、双方にとって心地よく過ごすためにも、適切な対応を心がけましょう。

ここまでは、家族などの介護者が身の回りにいる場合を想定して、認知症の方への対応方法についてお伝えしてきました。

本章では、おひとりさまの高齢者が認知症になってしまった場合に想定される困りごとをご紹介します。「一人暮らしの親が遠方にいる」「自分自身おひとりさまの高齢者で今後に不安がある」といった方の一助となれば幸いです。

ちなみに、ここで言う「おひとりさまの高齢者」とは、独身・離婚・死別などの理由で身の回りに家族がおらず、身寄りのない高齢者のことを指します。

さて、おひとりさまの高齢者が認知症になった場合に困ることとして、次の３つが考えられます。

• 財産を自分で適切に管理できなくなる
• 契約や手続きを一人で行えなくなる
• 身の回りの世話をしてくれる介護者がいない

おひとりさまの高齢者が認知症になることで、財産を自分できちんと管理できなくなる可能性があります。

認知症が進行すると、日常生活における様々な物事がスムーズに行えなくなっていくので、お金や所有している財産の管理についても自分ひとりでは難しくなります。

正常に判断ができず無駄にお金を使い込んでしまったり、詐欺被害にあってしまう危険性もあります。

例えば、財産に関しては以下のような問題が発生する可能性があります。

1. 金融機関での問題
2. 相続の問題
3. 悪徳業者や詐欺のリスク

金融機関によっては「顧客の判断能力に大幅な低下があることを知った」際に口座取引を制限することがあります。

全面停止とはならず、年金の振り込みや公共料金の口座引き落としは継続しますが、例えば出金や契約内容の変更ができなくなることがあります。

あくまでも不正な引き出しを防ぐ目的ではありますが、たとえ家族であってもお金を引き出すことができなくなってしまうため、事前の対策が必要になります。

認知症になった後に遺言を作成したり、財産管理や処分の手続きをするのは難しいと考えられます。

自分が亡くなった後に遺産をどのように処分するかは、認知症になる前に手続きを済ませておく方が良いでしょう。

認知症が進行すると、自己決定能力や物事の判断能力が低下している場合があります。

悪徳業者や悪意のある他人から、高額商品を買わされたり、詐欺の被害にあって本人の気が付かないうちに財産を使い込んでしまうリスクもあります。

認知症になると、生活で必要なあらゆる手続きを自分ひとりで行うことに不安が出てくる可能性があります。

例えば、年金など行政での手続き・老人ホームの契約・保険の契約や手続きなど、生活する上で手続きや契約事は何かと発生します。

これらの手続きや契約を自力で行えなくなってしまうと、生活にも支障が出てきてしまうでしょう。

認知症が進むと、食事や排泄、入浴などの身の回りの世話を自分一人で出来なくなってしまう可能性があります。

配偶者や子どもなど、身の回りにサポートをしてくれる家族がいれば頼ることもできますが、おひとりさまの高齢者の場合には生活に支障をきたしてしまいます。

おひとりさまの高齢者が、認知症になった後のためにできる対応策は以下の２つです。

自分が認知症になった後に「財産管理」「契約・手続き」「身の回りの世話」で困らないためにも、本章でご紹介する2つの対応策を理解しておきましょう。

• 成年後見制度を利用する
• 老人ホームを利用する

成年後見制度を利用して、生活する上で発生する様々な契約や手続きのサポートをしてもらうことができます。

成年後見制度とは、知的障害・精神障害・認知症などによって判断力に不安を抱える人が、様々な契約や手続きをする際に不利益にならないよう支援する制度のことです。

成年後見制度とは（ご本人・家族・地域のみなさまへ）｜厚生労働省

なお、成年後見制度の中には次の2つの種類があります。

• 任意後見制度
• 法定後見制度

以下で、任意後見制度・法定後見制度それぞれの違いについて、詳しく解説します。

「任意後見制度」とは、認知症や障害の場合に備えて、判断能力が低下する前にご本人が選んだ方（任意後見人）に、代わりにやってもらいたいことを契約しておく制度です。

したがって、任意後見制度の契約は、認知症になる前に完了しておきましょう。

また、任意後見制度では任意後見人が契約した内容通りに行っているか任意後見監督人が監督します。

任意後見監督人には、代わりにやってもらいたいことの内容に応じて、第三者（弁護士、司法書士、社会福祉士、税理士等の専門職や法律、福祉に関わる法人など）が選ばれることが多いです。

なお、任意後見契約公正証書の作成には、15,000円前後の費用が発生します。

（参考：任意後見制度とは｜厚生労働省）

あわせて読みたい

任意後見制度を分かりやすく解説！| 生前事務委任契約や法定後見制度との違いは？ 任意後見制度は、認知症等によって判断能力が低下した場合に任意後見人に代行してもらいたいことを、判断力が低下する前にあらかじめ契約によって決めておく制度です。 …

「法定後見制度」は、本人の判断能力が不十分である場合にのみ利用でき、家庭裁判所によって、成年後見人（本人の代わりに業務を行ってくれる方）が選ばれる制度です。

任意後見人との違いは、本人にとって最も適任だと思われる人が家庭裁判所によって選出されます。例えば、親族や弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門家が選任されることがあります。

法定後見制度の場合、本人の困りごとの内容によって、「補助」「保佐」「後見」の3つの制度が用意されています。それぞれの対象者は以下の通りです。

• 補助
  →重要な手続き・契約の中の一部に不安がある方
• 保佐
  →重要な手続き・契約など全般に不安がある方
• 後見
  →多くの手続き・契約が困難な方

なお、法定後見制度の申し立てにかかる費用は、収入印紙代などを含めて3,000円程度となります。

（参考：法定後見制度とは｜厚生労働省）

おひとりさま高齢者の方が認知症になってしまった場合には、老人ホームの利用を検討しましょう。

おひとりさまの場合、認知症が進行するとどうしても一人で生活を送るのは困難になっていく可能性が高いです。

例えば、食事や入浴、排泄など生きていく上で欠かせない作業も自力で行えなくなってしまうかもしれません。

費用はそれなりにかかりますが、老人ホームには介護スタッフがいるので身の回りの世話をしてくれますし、他の居住者とのコミュニケーションも生まれます。

ただ、多くの老人ホームでは、入居に際して保証人が必要になります。

おひとりさまの場合には、身元保証サービス会社を利用することで、保証人を頼める人がいない場合でも老人ホームを利用することができます。

あわせて読みたい

【初心者向け】老人ホーム入居には保証人が必要？いない場合の対応方法まで解説 多くの場合、老人ホームの入居には保証人が必要になります。保証人のいない入居者を受け入れることで、老人ホーム側が多大なリスクを背負うことになってしまうからです…

身元保証サービス会社とは、身元保証人の役割代行サービスを運営する民間企業やNPO法人のことです。

身元保証サービス会社は、弁護士・司法書士・行政書士などの専門家と連携し、保証人がいない人の身元保証や連帯保証を引き受けてくれます。

具体的には、身元身元保証サービス会社を利用することで、老人ホーム入居に必要な「保証人」「身元引受人」の役割を一通りカバーしてもらうことができます。

おひとりさまで老人ホームを利用したいけれど、保証人になってくれる親族が身の回りにいないという場合には、身元保証サービスの利用を検討してみましょう。

認知症は、脳の病気や障害など様々な原因により認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいいます。

2025年には高齢者の約5人に1人が認知症になると言われており、自分や家族など誰もが発症する可能性を持っています。

いざ、自分が当事者になった際に落ち着いて対応できるよう、認知症の方への適切な対応方法を理解しておきましょう。

本記事でご紹介した認知症患者への正しい対応の仕方をまとめると以下の通りです。

• 認知症の方に寄り添ってペースを合わせ、見守る
• 認知症の方が困っていたら優しく声をかける
• 認知症の方の自尊心を傷つけ無いように配慮する、否定はしない

また、おひとりさま高齢者が認知症になってしまうと「金銭管理」「契約・手続き」「身の回りの世話」が一人で出来なくなる可能性があります。

対応方法をまとめると以下の通りです。

• 「成年後見人制度」「老人ホーム」を利用する
• 老人ホーム入居のための保証人を頼める人がいない場合には「身元保証サービス」を利用する